1 在宅介護教室より
今回は、「介護で気になる感染症」の第2回として、「血液・体液感染」について取り上げました。前回の「接触感染」が主に皮膚の表面から感染してしまう場合を取り上げましたが、今回は傷口などを通して細菌やウィルスが体内に進入することで感染する感染症のうち、介護上一般的に留意すべきものについてご紹介します。現在介護現場で目にする代表的なものに梅毒・ウィルス性肝炎があります。
1. 血液・体液感染の感染ルート
@ 傷口や粘膜に、ウィルスや細菌を含んだ血液や体液(以下「汚染された血液等」)が触れる。(傷のある手指で血液等に触れる、保菌者と性行為を行う等。ただし正常な皮膚に触れただけでは感染はおきません。)
A 汚染された血液等の輸血。(血液製剤も含む)
B 針刺し事故(保菌者に使用した注射針等を誤って刺してしまうこと。)
C 母子感染等
2.感染症
1)梅毒
梅毒トレポネーマ(スピロヘータ)に感染することで発症する全身性慢性感染症です。梅毒トレポネ−マそのものは比較的弱い細菌で、42度以上の温度や乾燥で直ぐに死滅し、また消毒剤にも弱く石鹸でも死滅してしまいます。梅毒の感染力を示す検査として、一般的に血清梅毒検査が行われます。具体的にはTPHA法定量検査・RPR法定量検査と呼ばれるもので、TPHA(+)・RPR(+)の場合で
・RPRが8〜16倍以上:感染力が強い。直ちに医師へ報告。(経口ペニシリン内服を検討)
・RPRが低値で安定 :既感染であり、感染力は無い。
と判断されます。TPHA値は治療後も低下せず、生涯陰性化することはありません。かつて感染した既往があり、治療済みで感染力は殆ど認められないにもかかわらず、検査すると出てくるもの、いわゆる「陳旧性梅毒」と言われるものがこれにあたります。RPR値は治療後2〜3ヶ月後より低下しはじめ、4倍低下になれば治療は成功していると判断されます。
2)ウィルス性肝炎
肝臓には主に次の@〜Eのような働きがあります。肝炎とは肝臓の細胞が壊れて、これら肝臓の働きが悪くなる病気です。
@栄養分の生成、貯蔵、代謝。 A血液中の薬物や毒物の分解、解毒。
B出血を止める。 Cホルモンを調整する。
D胆汁の産出と胆汁酸の合成。
E体内に侵入したウィルスや細菌と戦う。
肝炎は急性肝炎と慢性肝炎に分類されます。急性肝炎の殆どがウィルスの感染によって発症します。肝炎ウィルスには多くの種類がありますが、日本人に多いのがA型・B型・C型肝炎ウィルスによるものです。感染の状態は、血液検査の肝機能項目にあるGOT・GPTの値が高い場合に、さらに次の検査としてウィルスマーカー検査を実施してその結果で判明します。B型肝炎ではHbs抗原(+)の場合、症状のない無症候キャリア、Hbe抗原(+)の場合、発症する可能性および感染力も高い状態であることがわかります。C型肝炎では抗原の検出が難しいため、まず感染の有無を示す抗体を調べることになります。HCV抗体(+)の場合は、現在感染しているかあるいは過去に感染していたことになり、その上でHCV-RNA(+)が判明すると現在C型肝炎に感染していることになります。なお肝炎ウィルスには有効なワクチンがあるのでハイリスクグループに属する方々は接種を受けることが望ましいとされています。(C型肝炎のワクチンは現在のところ無いとのことです。)
3.
感染予防 (スタンダードプリコーション:標準予防策)
1)対象
@
血液、体液(精液・膣分泌物・脳脊髄液)
A
喀痰、尿、便、膿(湿性生体物質)
B
粘膜
C
傷のある皮膚
2)方法
@
手洗い。(手洗いは手指の洗浄、水切り、消毒を含みます。感染予防は「手洗いに始まり、手洗いに終わる」と言われています。)
A
血液、体液への接触を予防するための手段(手袋、エプロン、マスク等)の使用。
・手袋 :ラテックス性の使い捨てのものを用意し、上記対象物に触れるとき、あるいはその可能性のある時に使用します。なお、手袋は処置ごとに外して捨てる、手袋をしたままドアノブや電話に触れたりしない、外した後には必ず手を洗うなどの注意点は守ってください。
・エプロン:体液や、膿でジクジクしている褥瘡のある人への処置など、血液や体液が介護者の体に触れる可能性のあるときに使用します。処置が済んだら速やかに外し、手洗いを行います。
B
針刺し、切創事故を減らすための技術、および器具の使用。(事故時の対応)
3)事故時の対応
@ 皮膚の汚染(手指などが血液、体液などに汚染された場合)
1. 流水と石鹸で十分な手洗いを行う。
2. 速乾性擦り込み式消毒液で消毒する。(アルコール、ウェルパス等)
A 粘膜の汚染
1. 目に入ったとき:直ちに流水で洗い流す。その後イソジン点眼液10%希釈を点眼、消毒する。
2. 口に入ったとき:直ちに流水で口を漱ぎます。その後イソジンガーグルで嗽をする。
B 針刺し(対象者に使用した注射針や鋭利な器具で手指を傷つけたとき)
1. 直ちに傷口から血液を十分に搾り出す。(口ですってはいけない)
2. 流水と石鹸で洗浄。
3. 0.2〜1%次亜塩素酸ナトリウム液(ミルトン、ハイター、ピュ−ラックスなど)に3〜5分創部を浸す。または1〜10%ポピドンヨード液(イソジンなど)に3〜5分浸す。
4. 医師に連絡し、必要な指示を受ける。
4)日常的な留意点
これら病原微生物(肝炎ウィルス、スピロヘータ)は血液(体液)を介して感染するので、通常の日常的な接触では感染は起こりにくく、あまりに過剰な対応はかえって要介護者の介護状態を悪化させたり、生活の質を著しく損うことになります。その上で以下に日常的注意点を挙げてみます。
@
該当者が怪我などで出血している場合、その血液には直接触れない。
A
剃刀、歯ブラシ、髭剃りなどは血液が付着することがあるので、共用せず個人専用とする。(食器・浴槽などは別にする必要はありません)
B
下着や血液などが付着した衣類、リネン類は水洗い後、0.05%次亜塩素酸に1時間以上漬け込んでから洗濯する。
C
該当者が乳幼児に口移しで食べ物を与えないよう説明をしておく。
D
入浴時、創、出血、褥瘡、浸出液がある場合の入浴は、創面に粘着性防水フィルム(ドレッシングテープ)を貼付後、その日の一番最後に行う。部位によりドレッシングテープが貼れない場合にはシャワー浴とする。浴槽の洗浄は通常の家庭用洗剤によるもので十分洗浄後消毒用エタノールを噴霧しておく。
2 風景
10月2日に国営武蔵丘陵森林公園まで遠足に行きました。関越自動車道東松山ICから5分ほど、施設からは約1時間の道のりです。当日はおだやかな秋晴れに恵まれ、またご家族一人ボランティアさん二人のお手伝いもあり、車椅子を連ねて散策する事が出来ました。広大な敷地をめぐって廻ることは叶いませんでしたが、公園南口付近の日本庭園および池周辺、雑木林の遊歩道を約1時間ほどかけて散策する事が出来ました。木漏れ日の中、ハイキング気分を満喫、途中芝生の広場ではたくさんのアキアカネが飛び交っており、澄んだ青空の中ひときわ鮮やかな赤色が印象的でした。お年寄りも普段施設にいる時と全く違った、こぼれるような笑顔で見上げていらっしゃいました。お食事は芝生の上でおにぎり弁当でした。自然の中でもあるし、散歩の後でもあるし、おしゃれなパラソルの下でもあるし、ひと味もふた味も違ったお弁当だったと思います。「またここに来たいね!」という声もあり、好評を頂いたようです。
(遊歩道の散策)
3 お知らせ
1) 在宅介護教室
日時 10月26日(日)13:30〜15:00
場所 当施設2階食堂
テーマ 介護で気になる感染症B「飛沫感染」
〜結核・インフルエンザなど〜
2) 予防接種のお知らせ
昨年のインフルエンザの大流行は記憶に新しいところです。今年の流行はどうなるのかはわかりませんが、高齢者には危険な感染症です。罹患をきっかけに肺炎その他の疾患を併発させることもあり、悪くすると命取りにもなりかねません。当施設のお客様には皆様可能な限り予防接種をお願いしております。今年も市の補助が行われ、自己負担は2200円です。皆様もぜひ予防接種を受けられることをお勧めいたします。(高齢者のみ。詳しくは青梅市健康センターまで)